4月号の訂正のお知らせ

【訂正のお知らせ】
 購読者の方からご指摘を頂き社内で検討した結果、月刊『恒河沙』226号の30ページ中段に記載されていた文章は特定の属性に対して加害性があったことを認め、28日以降に発売される恒河沙に関しては当該記述を撤回し塗りつぶすことといたしました。既に出回っている未修正の数部に関しましては交換の対象とさせていただきたいと思います。また、本件に関して問題点と対策を検討すべく、私は編集長としてOBと現役合同の検討会議の設置を表明し、社としての立場を決定いたしました。以下に検討会議の結論を掲載いたします。
           恒河沙226号編集長【浮浪】

【本件に関する検討と謝罪】
 皆様こんにちは。もう4年生にもなるのに、本件に関する検討会議の議長として担ぎ出された【猫跨ぎ】と申します。社を代表して今回の訂正に関して経緯を説明したうえで、時代錯誤社としての立場を表明したいと思います。
 まず経緯を説明します。恒河沙226号は4月26日の5限後の街頭販売にて発売を開始しました。その日の深夜、記事の内容に関して抗議のメールを頂きました。抗議は新歓用の広告のデザインを評定する「広告評定」においてある特定の団体の広告を評定した部分に関して、加害性のある記述があるという内容でした。編集長と特集担当者はこのメールの内容の妥当性を認識し、対応を検討するために、翌日の木曜日に検討会議を立ち上げ、会議の判断が出るまで月刊恒河沙の販売を一時中断することを決定しました。メールの講義内容の論点は主に以下の3点でした(メールの送り主には論点の公開に関して許可をもらっています)。
 1. AセクシャルのAがAnusを指すのだろうと予想する「ボケ」は、本来無性愛者を意味するAロマンチックやAセクシャルの人間に対するヘイトスピーチであるのと同時に、肛門性交に対するスティグマを助長する差別発言である。
 2. マイノリティ支援サークルの立て看板を「ハンマーで破壊してしまうかもしれない」などと暴力を示唆することは、マイノリティから声を奪う行為である。
 3. 立て看板の内容を邪推し、特定の団体の思想に関して「サンディカリストの集団なのではないか」などと邪推することは名誉棄損であり不当である。
 以上の指摘のうち、時代錯誤社は1点目の主張の妥当性を完全に認めます。
 以下、本文章を書いた【人民戦線異状なし】の謝罪文です。
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 私は今回の事に非常に大きな責任を感じています。
 私はAジェンダーは肛門性交とは全く関係のないものであると認識をしていたため、AジェンダーのAをアナルと勘違いするのは馬鹿馬鹿しい間違いであり、この点で人を笑わせることができると考えました。
 Aに充てる言葉としてAnusを選択したのは、私が肛門性交を面白いものだと感じていたことが理由です。これは異性間性交渉において、膣に入れればいいものをわざわざ肛門に挿入することが理にかなわないという不自然さが私にとって面白いものだったためです。私は肛門性交が同性間性交渉において大切な営みであり、肛門性交を笑う事が同性愛者への攻撃になるという事にまったく意識がありませんでした。これは私の想像力や知識の欠如が原因だと思います。
 今回私が書いた文章は私が無意識に持っていた加害的な偏見に満ちていました。この記述によって傷ついた方々に対してはなんとお詫びすればよいか、お詫びしようとすることすらおこがましく感じられますが、せめて反省の思いを伝えさせていただきたいと思います。誠に申し訳御座いませんでした。
 そして、指摘してくださった方にはお礼を申し上げたいと思います。無意識の差別のことをアンコンシャス・バイアスというのだと今回教わりました。私は多くのバイアスを抱えている人間だと思います。今回のことで自己嫌悪に陥って腐るのではなく、少しずつ他者を理解して自分のバイアスを取り除いていけばいいではないかと社員に言ってもらいました。彼らの言う通り、頑張ってみようと思います。
 今後の活動を通じて、皆様に対するせめてもの罪滅ぼしと恩返しができるように精進してまいる所存です。
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 以上の文章を読み、【人民戦線異状なし】は問題点を理解し、反省しているものと本会議は判断しました。しかし、責任は執筆者1人にのみあるわけではありません。この文章が特定の属性の人間に対する差別的感情を含んでいることに発行前に気づくことができなかった点で、責任は私を含む全社員の上にあります。そこで、恒河沙226号の編集長である【浮浪】の謝罪文も以下に掲載いたします。
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読者の皆様
編集長を担当した【浮浪】です。この度、社会的に普段から多くの苦難を経験されているであろうマイノリティの方々に対して配慮がないばかりかあまつさえ加害性のある文章を校正において見逃し、記事にしてしまった責任はすべて編集長である私にあります。傷ついた方々に深くお詫び申し上げます。この件に関してせめて我々なりの正義を通すため、以下のことを決定いたしました。
・28日以降販売される恒河沙に関しては、当該箇所を黒塗りとします。
・すでに出回っている恒河沙に関しては、回収し修正されたものと交換いたします。

東京大学駒場キャンパスがあらゆる生き方の許される平和で開かれた場になるように、その場に我々が参加できるように、今後校正体制を強化し、ガバナンスを盤石にしたいと考えております。
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 塗りつぶし作業は28日と29日に社員の手によって行われました。ここで、今回黒塗りにした部分に関して、手作業で筆ペンによって行われた点をもしかすると「戦後の教科書のパロディでキャンセルを風刺しているのではないか」と解釈される方がいるかもしれませんが、その解釈は当たらないということを明白に述べておきたいと思います。今回我々は「キャンセルされた」などと言うつもりはありません。今回の撤回は、指摘こそ読者によるものだったとはいえ、最終的には検討会議にて社が自律的に決定したことです。また、筆ペンを使用した理由は、最寄りのセブンイレブンに売っている水性ペンが筆ペンしかなかったためで、水性ペンを使用したのは裏映りを防ぐためです。生協購買部ではなくセブンイレブンに行ったのは、検討会議が開かれたのが上で書いた通り27日の五限後であり生協購買部がすでに閉まっていたためです。この点、誤解なきように誠意をもって詳細に補足させていただきたいと思います。本件に関して、我々の感情は反省以外にはなにもありません。
 第1点目の指摘に関する認識と対策は以上です。

 以降は、メールによって示された2・3つ目の指摘に関する本会議の認識を示します。結論から申しますと、本会議はこの2点に関しては妥当性を認めません。
 まず、「マイノリティ支援サークルの立て看板を「ハンマーで破壊してしまうかもしれない」などと暴力を示唆することは、マイノリティから声を奪う行為である。」とありますが、これは誤解です。これは、昨年駒場キャンパスにおいて発生したハンマーによる立て看板破壊事件を元ネタとしております。去年のキャンパスネタが入っている点でハイコンテクストだったため、新入生を読者層とする4月号に記載するのは悪手だったかもしれませんが、『恒河沙』の大半は東大生の内輪ネタで構成されており、この点を重大な過ちであると判断することはできないと考えます。さらに、【人民戦線異状なし】の状況に照らして、当該立て看板を彼が不快に思う理由も認められると考えております。彼は現在バイトを飛んでおり、バイト先からかかってくる電話を1か月近く切り続けているという状況にあります。また、彼は奨学金に落ちていました。大きな不安を抱えるなかで「バイト、就活、奨学金、お金、不安」と大きな文字で書いてある立て看板を見た彼の「心がざわついてとてもいやな気分になった」という感情は大げさに言えば純文学的であり価値のあるテクストであると判断します。以上踏まえて判断するに、この文章の加害性は確かに一定程度認められるとはいえ、撤回するに至るほどのものではないと判断いたしました。

 次に、「立て看板の内容を邪推し、特定の団体の思想に関して「サンディカリストの集団なのだろうか」などと邪推することは名誉棄損であり不当である」という論点に関してですが、本会議はこの指摘も阻却いたします。この立て看板に最も大きく書かれている文章は「トランスの真の解放の要求は労働者たちの、社会主義者たちの、フェミニストたちの、反レイシストたちの、クィアの人たちの、要求と響きあい、重なり合う」です。下に小さい文字で「労働者に握られた権力」「労働者のための安価な住まい」などとも書いてあります。これは『トランスジェンダー問題 –議論は正義のために』という本からの引用です。この文章は、トランス医療が保険対象外で高額になっている現状などを踏まえれば、労働者の要求とトランスの解放の間に共鳴する部分があるということは確かに納得できることです。しかし、それこそハイコンテクストというものでしょう。新入生がこの立て看板を初めて見た際「サンディカリストの集団なのだろうか」と疑問を持つ状況は不自然ではないという事が出来ます。「広告評定」の企画は広告のデザインがどのような印象を人に与えるかを素直に書き綴ることが1つのコンセプトになっています。今回の場合「サンディカリストの集団なのだろうか」という疑問形で文章が書かれており、断定的な要素はそこまで強くありません。また、もし「犯罪者なのだろうか」と邪推したとすれば広義に名誉を棄損する事になりかねませんが、サンディカリズムというのは悪ではありません。立て看板の文章にサンディカリズムに呼応する文言があることも事実です。以上の点から、3つ目の指摘に関しても、もしかすると加害性があるかもしれないが、撤回するほどではないと判断いたしました。

 以上が検討会議による本件に関する総括となります。繰り返しになりますが、時代錯誤社は1つ目の議論に関してはこちらの非を完全に認めるものであります。そして、Aロマンチック、Aセクシュアル、肛門性交に関して加害性のあった記述を撤回し、傷ついた方々に謝罪し、その反省の意を今後行動によって示していけるようにガバナンス体制を強化することをここで皆様にお伝え申し上げました。以上です。

                文責:【猫跨ぎ】

【総括】

 編集長の【浮浪】です。検討会議の議論に基づき、今回の恒河沙に関して我々がとった対策はすでに上にある通りです。
今回、検討会議は議長を【猫跨ぎ】に依頼し、議員として【うんこうん太郎】【ごはんは主食】【社事手伝い】に参加していただきました。
 検討会議の結論を受けたのちの公表等に関しては、編集長である私【浮浪】と弊社幹部である【森の夜】をはじめとする5人の社員によって執り行われました。
 社員【人民戦線異状なし】は以上に掲載した反省文の提出により、反省の意が確認できたため、雑誌の黒塗り作業を他の社員の4倍させるという罰則をもって放免といたしました。すべての黒塗りを彼にさせなかったのは、再三申し上げるように他の社員にも少しずつ責任があったためです。黒塗りはみんなで少しずつ行いました。
 社員一同を代表して、改めて傷つけてしまった方々に対する謝罪とこの度の問題点に気づかせてくれた読者の方に御礼を申し上げます。申し訳ございませんでした。そしてありがとうございます。

                文責:【浮浪】